塾講師になりたいか
最近まで働いていた塾の人たちと夕飯を食べていたときに、「研究者やめるんなら、うち来ない?」と誘われた。ありがたいことだし、嬉しいし、知った人たちの多い職場は魅力的だ。しかし、今のところは、塾講師にはなりたいと思わない。というのも、塾講師という仕事が、まさしく研究者という仕事とよく似た困難を抱えているように思われるのだ。
(1)給与の低さ
誘ってくれた元バイト先は、創立10年弱、本部校舎と、近くの特急停車駅前に特進教室を開設している。ローカル塾としては、まずまず軌道に乗っていそうに見えた。
しかしそれで自分が食っていけるかは別問題だ。基本的に講師は非常勤、時給は3000円で、まあまあ良かった。1日に最大5コマやったこともあるが、毎日5コマ授業が回ってくるとは思えない。仮に週20としても*1月収24万円、ボーナス無し、手当無し。かつ致命的なことに、昇給の見込みがない*2。
これはきつい。
(2)転職市場での弱さ:潰しが効かない
給料が低いだけなら慎ましやかに暮らせばいいのだが、もう一つ、塾講師にはスキルが特殊過ぎて転職しにくいという欠点がある。
仮に正社員または役員になれたとしよう。しかしあくまで中小企業、しかも入試制度が大きく変化しかねない今、勤め先が倒れることは覚悟しておかねばならない。そのとき、塾講師という仕事は転職の幅をかなり狭めかねない。
どういうことか。いわゆる文系総合職と呼ばれる仕事の内容には、かなりの互換性がある。ある程度の歳までならかなり転職の自由が効くし、ある程度の経験を積んでからでも同じ業界内でなら移動はできる。
ところがである。塾講師というのはかなり特殊な仕事である。潰しが効かない。途中で挫折すると、身動きがとれなくなる。
⑶競争の激しさ
それでも勝ち抜けるだけの講師としての腕が自分にあるのなら、塾講師もまた魅力的だろう。しかししょせんはアルバイト講師であった自分にその技量も、熱意もないのである。
そして何より、ここまで話してきた欠点、①給与の低さ、②潰しが効かないリスク、③競争とはまさしく、研究者という職業の欠点ー30歳手前までせいぜい月収額面20万円しか望めず、ポスドクを終えてテニュアに乗れなければ転職市場では冷遇され、それでも勝ち残るために競争し続ければ生活を際限なく破壊されるーと瓜二つなのだ。
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裏を返すと、ある時期まで予備校講師が大学院生の第二の進路として愛された理由も、このあたりにあるように思われる。つまり、研究者と、どこか似ているのである。似ているからこそドロップアウトしたものにとっては乗り換えやすいのだろうが、そもそも研究者という生き方に疑問を覚えたものにとって、「普通の会社員」になる最後のチャンスをかけてまで*3つきたい仕事では、ない。